子育てに悩みはつきものですが、特に発達に遅れがあるお子さんの子育ては、多くの苦しみや葛藤が伴います。今回は発達障がいがある子どもを育てる2人のママと、自身も障がい児育児をしながら、〈ひだまりハウス〉を主宰する小西さんにお話を伺いました。
※1/ASD(Autism Spectrum Disorder)=自閉スペクトラム症。「対人関係や社会的なやりとりの障がい」「こだわり行動」という2つの基本特性がある。
※2/ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)=注意欠如多動症。話を集中して聞けない、作業が不正確、なくしものが多いといった「不注意」、体を絶えず動かす、離席する、おしゃべり、順番を待てないなどの「多動性」「衝動性」の特性がある。
こころさん (仮名)30代
長男10歳/
重度のASD※1・知的障がい
息子には”探究心が強い特性”があります。好きなものを深く追求する姿を見ると、ゆっくりではありますが確実に成長している様子が感じられ、うれしく思います。
Q.お子さんの障がいに気づいたきっかけと、診断を受けた経緯を教えてください。
A.息子は3歳で正式に重度自閉症と知的障害の診断を受けましたが、1歳頃から多動が目立ち始め、ずっとおかしいと感じていました。2歳頃には手に負えなくなり、小児科医に紹介状を書いてもらい〈長岡療育園 子ども発達センター〉を受診し、自閉症と診断されました。ただ、正式な診断は3歳にならないとできないため、それまで定期的に通院していました。
Q.診断を受けた後の気持ちはいかがでしたか?
A.すごく楽になりました。診断前は、私が自分の子どもを「変だ」と言っても、誰も認めてくれず健常児として扱われ、私が変な親だと思われていました。子どもが重度のASD・知的障がいという診断がされたことで、ようやく報われた気持ちになりました。ただ今までの人生、障がい者に接する機会がなく、その世界を知らなかった自分の無知を恥じ、自責の念も同時に湧いてきました。
Q.お子さんとのコミュニケーションで工夫していることはありますか?
A.息子は「ダメ」が通じないので、「ここは走っちゃダメだよ」ではなく「ここは歩きます」とか、息子にしてほしいことを具体的に伝えるようにしています。また、息子が癇癪を起こさないように頭の中でシミュレーションをし、事前準備をしっかりしてどんなことでも対応できるように工夫しています。
Q.子育てを通して学んだことや、自身の変化はありますか?
A.視野が広がりました。いろんな人がいて当たり前と、育児を通じて学びました。もともと私は人生で大きな挫折を経験しておらず、子育てを通して初めて大きな挫折を感じました。でも、今ではその経験が自分を成長させてくれたと感じています。
Q.同じような悩みを抱えている読者へメッセージをお願いします。
A.同じ境遇の親御さんたちと、お互いを尊重し合いながら情報を共有することで、気持ちが軽くなることもあります。“生きづらさ”を抱えている方は、“答えのようなもの”も出るかもしれません。また、もし子どもの発達に不安がある方がいれば、まずは病院に行って、専門のお医者さんに相談することもお薦めします。
あいさん (仮名)30代
長女13歳/ASD※1
長男11歳/ADHD※2
息子は、気持ちを理解してくれる人には心を開き「ニコッ」と笑顔をみせてくれるんです。本当は、とても繊細で素直なんですよ!
Q.お子さんの障がいに気づいたきっかけを教えてください。
A.息子は1歳半検診で保健師から指摘を受けました。それ以前から多動で、興味のあるものに一直線に向かうなど、周りが見えていない様子でした。娘も活発でしたが、小学校入学後にじっとしていられない、話を聞けない、集中が続かないなど、学校生活に支障が出始めたことで、障がいを疑うようになりました。
Q.発達障がいの疑いを感じたとき、すぐに病院へ受診しましたか?
A.病院は「行ったことのない場所に行く恐怖」と、発達障がいに対して無知だったため不安もあり、行けませんでした。でも、発達障がいの子ども2人を育てる友人に相談したところ、〈長岡療育園子ども発達センター〉を教えてもらい、受診する勇気をもらいました。
Q.診断を受けた後の気持ちはいかがでしたか?
A.未知の世界に入ったようで「発達障がいについて勉強しなきゃ」と思いました。長女は障がいを隠して生活していますが、処方された薬が効いて学校生活も支障なく過ごせるようになり、もっと早く受診しておけばよかったと後悔しています。
Q.日常生活で困っていることはありますか?
A.息子の不登校と感覚過敏、そして家庭の貧困です。息子は学校に行けません。行けたとしてもヘトヘトに疲れてしまいます。目に入るモノ、音、匂いが刺激になり外出すること自体が大変です。そんな息子を家で見ないといけないので、私も働けず貧困に陥るという状態です。
Q.発達障がいについて学ぶ中で、気づいたことを教えてください。
A.自分自身や周りの人の特性に気づくようになりました。健常者にも個性の凸凹はあり、人の行動を見て特性を理解できるようになりました。息子が手に負えなかったのは、彼が“気持ちを言葉で伝えることが困難”だったということもわかりました。学びを深めるなかで、息子が最も生きづらさを感じていたことを理解できるようになったと思います。
Q.同じような悩みを抱えている読者へメッセージをお願いします。
A.沢山の方に助けを求めてください。私たち家族は、医師、看護師、行政、支援員、ひだまりハウスなど様々な方々に支えられ救われました。他害行為のある息子を育てる中で、常に社会への申し訳なさや苦しみを抱えていましたが、周囲のサポートは子どもの助けにも繋がりますよ。
お子さんの発達と成長に不安のあるご家族が悩みを共有しあえる場所〈ひだまりハウス〉代表 小西さんに聞いてみました。
障がい児を育てながら、2019年に〈ひだまりハウス〉を設立した小西さん。その原動力は「同じ悩みを持つ方々とお話したい」という強い思いでした。今年で6年目を迎え、「座談会」「講演会・勉強会」「個別相談」「親子イベント」など、専門機関と連携し多様な活動を展開している小西さんに、障がい児育児に関する疑問をお聞きしました。
小西 美樹さん
長男12歳/最重度の知的障がい
一人ひとりのお子さんの特性に向き合えるきっかけをお手伝いできればいいな、と思っています!
イベント・座談会・講演会など親子、ママだけ、パパだけなど様々な企画を実施しています。
Q.発達障がいのグレーゾーンと言われる診断について、どのように理解し対応すればよいでしょうか?
A.発達障がいの特性が見られるものの、確定診断には至らない状態のグレーゾーンについては、私からの回答が難しいので提携している臨床心理士の方に確認をしたところ「診断に関わらず、支援が必要な方がいるのが現状。認知機能に合わせて、オーダーメイドのプログラムが必要になります」との回答がきました。グレーゾーンの診断を受け不安になる方もいると思いますが、適切なサポートを受けるきっかけと捉えてみてはいかがでしょうか。
Q.診断を避ける人もいると思いますが、診断は必要だと思いますか?
A.診断は適切な支援を受けるために必要な場合がありますが、残念ながら診断名がつくことで周囲の扱いが変わってしまう可能性もあります。しかし、適切な対応ができないことによるストレスで、子どもや家族に鬱などの二次障害が生じることもあるため注意が必要です。まず、お子さんの特性を理解することで、適切な対処法や生き方の選択肢が広がることもありますよ。
Q.読者へのメッセージをお願いします。
A.どんな子育ても大変ですし、苦労が伴います。子どもと向き合いたくないことも沢山あると思います。「なんで私ばかり……」「どうしたらいいかわからない」「誰かに頼りたい」と思っている親御さんが、愚痴を言える、ほっとできる場所として当会がサポートできたらいいなと思っています。ぜひ、お気軽にご相談ください。
ひだまりハウス
●年会費2,000円〜3,000円
1家庭(各部会ごと)・イベント時に別途参加費等発生。
※非会員でもイベント・講演会・座談会などスポット参加もOK。